「悪と仮面のルール」(中村文則)を読んだ
こんにちは。
今回は、今(2018年1月13日~)、映画化されているらしい,「悪と仮面のルール」(中村文則)を読みました。
あらすじ
邪の家系を断ちきり、少女を守るために。少年は、父の殺害を決意する。大人になった彼は、顔を変え、他人の身分を手に入れて、再び動き出す。すべては彼女の幸せだけを願って。同じ頃街ではテロ組織による連続殺人事件が発生していた。そして彼の前に過去の事件を追う刑事が現れる。本質的な悪、その連鎖とは。
本紙裏表紙参照
感想
この小説の主人公,久喜文宏は、「邪」という,特殊な人間になるべく、生まれてきた存在。文中では、「邪とは、この世界を不幸にする存在」と書かれている。
この邪になる過程で役割を果たす存在として選ばれたのが、小説中の重要人物となる「久喜香織」。
邪になるための,感情の爆発の起爆剤としてあらかじめ用意されたのだと思うが、とある出来事から、文宏の父親の思惑通りにはことが進まなくなるため、先が読めなくなる。
文宏の父親は、「掏摸」に出てくる,邪神ともいえる木崎を連想させるが、比較すると、木崎の方が恐ろしかった気がする。まぁ、まだこの方の小説に慣れていなかったということもあるけど。
この小説では、「人を殺すことの意味」と、「人を殺した後の人間」が書かれていた。
主人公(文宏)は、中学生の頃に、父親を殺し、文中の言葉を借りると、
「人間を殺した人間は、これから、全ての温かなもの、美しきものを、真っ白な感情で受け入れることができなくなる。」
ことになると、父親から言われる。
確かに、父親を殺したことを実感した直後から、主人公は、異変を覚え、元のような文宏には戻れなくなる。本来、父親と香織とを天秤にかけた上での結果で、香織を選んだにもかかわらず、香織といることができなくなることは、とてもいたたまれなかった。
また、文中でたびたび出てくる言葉、「幸福とは閉鎖だ。」という表現も、何となく気にかかる。
言葉面では分かるが、よく分からない。
結果として、「人間を殺した人間」として生きていくことになる文宏は、新谷弘一という,別の人間の顔に、顔を変える。
父親との一件から、もともとはそこまで似ていなかったのに、父親に似ていくように醜くなった顔を変えたかったのだと思う。詳しい理由は、各々が考えることかなと思う。
また、「ルール違反」という言葉もたびたび登場する。
確か、文宏の顔を変えた医者,探偵の男,刑事の会田との会話の場面で使われていたが、今考えれば、文宏の周りの人間の多くが、「ルール違反」を望んでいたように思う。
「あまりにも憂鬱だ」と言っていた,文宏の兄にあたる久喜幹彦もそうかもしれない。
「ルール違反」という言葉は、表面的にはイメージの悪い言葉だが、言い換えると、特異的ともいえる。軽い言葉にはなるが、誰だって、特別なことというのは、気分が躍り気晴らしにもなるから、あくまで、それの延長線上であると思う。
また、ネタバレになるが、最後には、ハッピーエンドだったと思う。が、文中に、その人間が幸福だったか不幸だったかは、死ぬその直前までは分からないという表現があったので、あくまで小説中では「ハッピーエンド」だったということにしておこう。
終わりに
この方の本はどれも面白いんですが、その中でも上位に入るかなと思います。
また、全く関係ない話ですが、読書ノートをつけることにして初めての本だったので、読むのに時間がかかりましたが、その分、理解度が深まったかなと思います。
この作品は、いい意味で、主人公の心の変化が分かりやすかったように思います。
では。