少しだけ、歩く

ゆる~く、自己成長につなげたい。雑記。

「土の中の子供」(中村文則)を読んだ

 中村文則さんの「土の中の子供」を読みました。

 

 

土の中の子供 (新潮文庫)

土の中の子供 (新潮文庫)

 

 

 この方の作品である,「去年の冬、きみと別れ」が、3月上旬に映画化ということで、また、「教団X」の作者でも有名な作者。

 

 その作者の,5作目の小説となります。

 

 簡単なあらすじ

 27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。

   裏表紙抜粋

 

 この作品の主人公は、幼少期に親に捨てられ、また、養子として引き取られた遠い親戚からは、イライラのはけ口として、殴られたりけられたりされている。

 

 冒頭から中村文則ワールドで、主人公は、夜、公園脇の自販機の隣でたむろしていたバイクに乗っていた男たちに、タバコを投げつけた直後、意識を失うまで暴力を受けるシーンから始まる。

 

 しかし、彼の,自殺願望に近い行動は、決して、死を求めているわけではないようだ。

 

 「自分は、死を求めているのだろうか。一連の奇行は、全てそれに惹かれた結果なのだろうか。違う、と私は思った。似ているように思うが、やはり違うような気がした。」

 

 とてもきわどい場面もありましたが、最後はハッピーエンド(あくまで、中村文則さんの作品の中では)だったことから、ある意味、この小説を通して、主人公の「私」は、何か得たものがあるのだろうし、それはすなわち、読者の我々にも、教訓めいたものが渡されたのだろう。

 

 また、彼の言葉に、こんな言葉がある。

 

 「…私を痛めつけた彼らの、さらに向こう側にあるもの、この世界の、目に見えない暗闇の奥に確かに存在する、暴力的に人間や生物を支配しようとする運命というものに対して、そして、力ないものに対し、圧倒的な力を行使しようとする、全ての存在に対して、私は叫んでいた。私は、生きるのだ。お前らの思い通りに、なってたまるか。言うことを聞くつもりはない。私は自由に、自分に降りかかる全ての障害を、自分の手で叩き潰してやるのだ。」

 

 彼の意志に関わらず、彼という存在を上から押さえつけるものは、彼の親や親戚だけではない。その根源に向けた言葉だ。

 

 最後には、親との完全な決別ともとれる言葉を残し、新たに生きていく決心をする。

 

 「蜘蛛の声」もまた、幼少期の出来事が関係する話なんですが、本の解説に詳しく書いてあったので、割愛。

 

 中村文則さんの,そこまで書くか、というほど、繊細に人間というものを表現する文章がお気に入りなので、一度は、この方の作品を読むことをお勧めします。

 

 では。